前書:この記事は元々2020年12月10日のDaily Coffee Newsに掲載されたものを、許可を得て再掲載しています。
コーヒーの生産処理方法とその定義(フローチャート付き)
Infographic by Evan Gilman, Words by Chris Kornman
アナエロビック・ファーメンテーション(嫌気性発酵)やマセラシオン・カルボニックなど、彗星の如く登場した生産処理方法に続くように、コーヒーの加工方法ーーーコーヒーの種から果肉をどのように取り除いて、どのようなフレーバーを発達させるかーーーは日々進化しています。
比較的単純な「フリーウォッシュト」や「ナチュラル」であっても、コーヒーの生産者が収穫したコーヒーを実際どのように加工し乾燥させているか、必ずしも正確に把握できているわけではありません。 コーヒーの発酵と加工法についての授業を控え、私は同僚のエヴァン・ギルマン Evan Gilman とともに「パルプトナチュラル」や「トリプルウォッシュ」といった言葉の意味を正確に分かりやすく伝えるための視覚化ツールを作成することにしました。

このフローチャート上でそれぞれの色は「緑:ほとんど必ず行われる」「赤:ほとんど行われない」「黄色:あいまいな場合」を示しており、例外は追加の色やパターン・文字で表現しています。世界中で生産処理方法の規格や手法が統一されていないため、適用する技術に差異が生じ、生産処理方法のばらつきが生じています。
ナチュラル
果実の中で乾燥させたコーヒーの場合、コーヒーは大抵コーヒーチェリーの中で乾燥されてそれ以上の加工を受けないため、一貫性がないというよりも生産処理方法の名前自体が問題になることがほとんどです。ナチュラル、ドライプロセス、トラディショナルドライ、サンドライ、チェリードライなど、様々な呼び名が流通しています。個人的には「チェリー(果肉)内乾燥」や「アンプロセスド(加工されていない)チェリー」といった表現を好んで使っています。
思うに「サンドライ(天日乾燥)」という言葉は漠然としすぎているように感じます。チェリーに包まれたままのコーヒーだけでなく、果肉を取り除いたコーヒーであっても「サンドライ」はよく行われます。生産処理の工程で水を使っていない、という意味合いで「ドライプロセス」の方が正確といえるでしょう。とはいえ、パーチメントの脱穀、密度とサイズのソーティング、袋詰など輸出準備のための工程を通称する「ドライミリング」との誤解を招く可能性がまだあります。

「ナチュラル」という言葉は、おそらく最も一般的ではありますが、最も明確さに欠ける言葉でもあります。「ナチュラル」という言葉は、食品や飲料の世界でいくつも異なる意味を持っており、時にはそれぞれが矛盾していることもあります。「ナチュラル・フード」とグーグルで調べてみると「最小限の加工や防腐剤による処理を受けた食品」とは出てきますが、FDA(アメリカ食品医薬品局)が定めた定義ではなく、単に「人工的または合成的なものが何も含まれていない」という意味での「自然」という解釈に過ぎません。
最近では「ナチュラルワイン」も人気を集めています。野生酵母による発酵や添加物ゼロといった文言は魅力的ではありますが、こちらもナチュラルの定義が定まっているわけではありません。
ウォッシュト
ウォッシュトコーヒーは、ただ水で洗っただけのコーヒーではありません。収穫されたコーヒーチェリーは、最初に果肉を除去され(パルプト/デパルプト)、発酵や浸漬を経た後にきれいな水で洗浄され、密度による選別が行われます。この洗浄・選別工程を含むものをフリーウォッシュトプロセスと呼び、通常は長い水路の中で行われます。
この工程の途中に、フローテーションタンクでの選別(小石や未完熟豆などを取り除くため)や、発酵後にきれいな水への浸漬(ソーキング。ケニアやエチオピアでよく見かける)が挟まれることもあります。ロイヤルコーヒーでは、ソーキングが行われていた場合「ダブルウォッシュ」、ソーキングとフローテーションタンクでの選別の両方が行われていた場合「トリプルウォッシュ」と表記して区別しています。フローテーションタンクでの選別は他の処理方法でも行われることが多いものの、必ずしもその情報が生産者からロースターにまで共有されるわけではありません。
以上の作業のほとんどすべては、ウェットミル、ウォッシングステーション、ファクトリー、 ベネフィシオ beneficio、またはパルペリー pulpery と呼ばれる中心的な場所で行われます。
「ウェットプロセス」という言葉は、ウォッシュトコーヒーのことを指す言葉として歴史的にもよく使われていますが、発酵・加工の専門家ルシア・ソリス氏 Lucia Solis が指摘するようにこの表現は非常にあいまいで、必ずしもウォッシュトプロセスと同じ意味を持つとはいえません。例えば「パルプトナチュラル」のように洗浄を伴わないプロセスでも「ウェット」と呼べる場合もあるからです。
ハニープロセス、パルプトナチュラル、セミウォッシュト
ハニー、パルプトナチュラル、セミウォッシュトという用語は、多かれ少なかれ互換的に使用することができます。いずれもウェットミルで果肉を除去した後、ウォッシュトプロセスのように発酵タンクや洗浄水路には入れず、パーチメントの周囲に残る粘液質をそのまま乾燥させます。
最初にパルプトナチュラルコーヒーが登場したのは1990年代初頭のブラジルで、水の使用量を抑えつつもウォッシュトコーヒーのような風味をもつコーヒーを生産するために考え出されました。輸出前のドライミリング時に、果肉ではなくパーチメントのみを取り除いたことから、ポルトガル語では cereza descascado =「脱穀されたチェリー」と呼ばれていました。

果肉を除去した後、洗浄しないままナチュラルプロセスのように乾燥させたことから、英語で「パルプトナチュラル」と呼ばれるようになり、それが定着していきました。「セミウォッシュト」という言葉はスペイン語圏のラテンアメリカで最初に生まれ(”semi-lavado”)、意図的にこの生産処理名が使われる場合もあるようです。使用する機器にもよりますが、セミウォッシュトコーヒーは果肉除去の際により多くの水を必要とする場合があります。
また、果肉を除去した「ハニー 」コーヒーを水路で洗浄・選別することも可能ではありますが、私の知る限りではほとんど行われていません。最近では、マセラシオン(浸漬)タンクに数時間置き、粘液質が発酵しきって完全に分解される前の、まだ少し粘液質が残った状態を軽くすすいで乾燥工程に送る、という「ファーメンテーション・ハニー」というものを見たこともあります。
実際には、ハニー、パルプトナチュラル、セミウォッシュトなどの意味するところはほぼ同じです。「セミウォッシュト」は、英語でのコーヒーの会話では最近あまり聞くことがなくなり、ほとんどの場合で「ハニー」が代わりに使われるようになっています。ハニープロセスの様々な色は、果肉の除去を行う際にどの程度果肉と粘液質を残したかを大まかに示すために使われ、多い方から少ない方に向かって、ブラック、レッド、イエロー、ホワイトが存在します。
アナエロビック&カルボニック
密閉容器や空気弁つきの容器を用いた発酵による生産処理方法を最近ますます目にするようになってきました。発酵中に利用可能な酸素を制限することで、コーヒー果実に働きかける細菌や酵母の種類をより有益なものに限定し、全く新しいフレーバーを生み出すことができるというのです。
別の記事でこれらの用語について説明しましたが、重要なのは、アナエロビック(嫌気性、無酸素)とカルボニック(二酸化炭素が豊富)のどちらにおいても、その役割と、より伝統的な発酵の役割の両方を複雑にし、曲解させがちな用語であるということです。
アナエロビック(嫌気性)は、低酸素の密閉環境を示す意味で広く使われるようになってきている用語です。通常、発酵が密閉されたタンクで行われることを除いては、ウォッシュトコーヒーのような加工方法を表すようです。嫌気性環境で乳酸菌が繁栄する傾向があることから、乳酸発酵(ラクティック・ファーメンテーション)という用語が使用されることもあります。
マセラシオン・カルボニック(カルボニック・マセレーション)とは元々ワイン業界の用語で、コーヒー業界で使用される際はほとんどの場合、密閉されたタンクにチェリーを丸ごと入れて発酵させることを指します。これらのコーヒーは大抵、発酵後に果肉を取り除きパーチメントの中で乾燥されますが、ここでも例外はあります。
これらの用語の意味がはっきりしないのは、生産者ごとに採用している技術に大きなばらつきがあること、この業界においてはまだ新しい生産処理方法であることが原因です。いずれにしても、果肉を除去する前または後に、密封容器ごと水に沈めて空気を抜き酸素の少ない環境の中で発酵させる、という手法と言って良さそうです。
明確に定義づけしようとするならば、この2つの用語をより良い言葉に置き換えるべきだと思います。「ホールチェリー」または「パルプトパーチメント」密閉容器発酵(マセラシオン)の方が、プロセスをより簡潔に伝えることができるでしょう。曖昧な用語に頼るのではなく、どのような器具が使われているのか、どのような状態のコーヒーなのかを明確にすることで、 サプライチェーン全体の理解を深めることができます。
その他の方法
ウェットハルは、インドネシアのスマトラ島から輸出されるコーヒーに最も一般的に用いられている加工方法で、インドネシアの他の地域でもよく見られます。プロセスは途中まで通常のウォッシュトコーヒーと同じですが、乾燥が終了する前のまだ湿っている状態でパーチメントを取り除き、コーヒー豆を取り出してから乾燥を完了させます。
バッグ・マセレーション、テーブル・マセレーションは、部分的、または完全に密閉した環境でチェリー全体を部分的に過熟させて「発酵」させる方法で、通常は部分的または完全に密閉された環境で行われます。正しく行うことで「ワイニー=ワインのような」風味が得られますが、センサリーディフェクト(欠点)がやや多いこともありこの方法には少し懐疑的です。とはいえ、この処理方法で味にきちんと一貫性のあるコーヒーもいくつか飲んだことがあります。まとめてアナエロビックと表示されることもあります。

さらにエコパルパーやディミュージレージネイターといった機械があり、これを導入すると発酵や洗浄といった工程をまるごと省略しながらコーヒーの粘液をすべて、またはほぼすべて取り除くことができます。ハニープロセスと工程が似ていますが、実際に洗浄・発酵工程を行っているわけではなくてもフリーウォッシュトと表示されることがよくあります。
マセラシオンの時間を長く取って品質を向上させつつも香味に悪い影響が出ないようにするため、追加工程を加えた発酵、複数の発酵スタイルの組み合わせ、断続的な洗浄や温度管理による発酵の延長なども行われています。チェリーを丸ごとマセラシオン(浸漬)してから果肉を除去したり、ドライ・ファーメンテーションを行った後に水洗いをしてから水中で発酵させたり、密閉容器を地下や空調設備で保管したりと、様々な例があります。
このようにドライとウェットの発酵を組み合わせ、さらに洗浄を追加したものを、アイーダ・バトル氏 Aida Batlle は行われている国の名前をつけて「ブルンジスタイル」と名付けて話題になっていますが、正直に言って私はブルンジでは見たことがありません。とはいえ、業界全体を通じてこのような手法を語れるほどにはまだ一般化されているとは言えないでしょう。
結論
もちろん、この分類は数多くある加工方法をあまりに簡略化しすぎているともいえます。しかし、全員がその本質的な意味に同意さえできれば、複雑な手順を簡潔に伝えることができるようになります。コーヒー生産に用いられる加工方法は、単純なものから複雑なものまで、たいてい「言語の不一致」に悩まされています。マセラシオン、パルピング、乾燥などの言葉の意味と定義を明確にすることができれば、共通の言語で会話ができるようになるでしょう。 それまでは、少し長くても丁寧な説明をしたほうがいいかもしれません。特に、コーヒーの品質や契約、人間関係を左右するような状況において、正確な「説明書」は必要不可欠だからです。
翻訳:Junko Chida
福岡でバリスタとして勤務した後、オーストラリアやイギリスでバリスタ、コーヒー農園でのボランティア、生豆商社でのインターン、品質管理・コーヒーロースターとしての経験を積む。現在はベルリンのThe Barnでロースターとして勤務中。
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